イラリオさんは私の手を握ると、中心地へと向かって歩き出す。倍以上も長さの違う私の足でも普通に歩けるのだから、きっと私に合わせてゆっくりと歩いてくれているのだろう。

「イラリオ!」

 歩き始めてすぐに、イラリオさんが普段着ているのと似た黒い騎士服を着た男の人に声をかけられた。綺麗な金髪は後ろにひとつに結び、こちらを見つめる瞳は周囲の木々の葉のような緑。少しまなじりの下がった、優しげな顔立ちの男性だった。年齢はイラリオさんと同じ位──二十代半ばに見えた。

「どうしたんですか? 今日は休むと聞いていましたが?」
「ああ、ロベルト! 昨日戻ってきたんだ。悪いが今日は休みをもらって、明日は本部に顔を出すよ。馬を停めるために寄っただけだ」
 イラリオさんは立ち止まると、片手を上げて挨拶を返す。ロベルトと呼ばれた男性はにこやかに笑いながらこちらに近づいてきた。
「ようやく戻ってきて安心しました。書類が山ほどたまっていますよ」
「まじか。代わりにやっておいてくれよ」

 イラリオさんはうげっと言いたげな顔をする。

「代わりにできるものは既にやっています。イラリオしかできないものを厳選して積み重ねてあります」

 ロベルトさんはにこりと笑みを浮かべる。そして、イラリオさんが連れている私へと視線を移した。