「わあ、お店がたくさん」

 大通り沿いに立つ建物のひとつから、焼きたてのパンの香りが漂ってくる。籠を持って一軒の店から出てきたのは、切り花を売る少女だ。
 通りの反対側に目を向けると、軒先に大きなハムやベーコンを吊した加工肉のお店が目に入った。その前で、ふくよかな女性と店番の女性が楽しげに会話をしている。

(辺境の地域って聞いていたからもっと田舎なのかと思っていたけれど、意外と中心部は栄えているのね)

 初めて訪れるセローナ地区の景色に、私はきょろきょろと周囲を見回す。

「エリー。あそこが俺の働いている場所──セローナ地区の聖騎士団の本部だ」

 頭上からイラリオさんの声がした。
 イラリオさんは手綱を持つ手の片方を離して前方を指さしている。その指先が示す方向を見ると、三階建ての大きな建造物が見えた。壁は白、屋根は赤茶色で、正面扉から左右対称に建物が広がっていた。

「わー、おおきい……」
「まあな。アメイリの森を管理する位だから、セローナ地区は聖騎士団が大きいんだ」
「ふうん?」