非常にオブラートに包んだ言い方ではあるが、ロベルトは間接的に『国王陛下がそうしろと命じたのでは?』と言っている。それには俺も同感だった。ただ、カスペル陛下が命じたとすれば──。

「何か突拍子もない無理難題を突き付けてこなければいいのだが」

 ロベルトも表情を固くしたまま黙り込む。俺の心配が杞憂であるとは言い切れないのだ。

 ロベルトの背後にある窓からは、澄んだ青空と木の枝に止まる二羽の小鳥が見える。そんな平和な日常だからこそ、思いがけないこの書簡が余計に気味悪く見えた。

    ◆ ◆ ◆

 必要な場面で感情を抑えるのは得意だ。
 幼い頃から、王族はそうあらねばならないと教え込まれてきたから。

 父上や母上が亡くなったときも、セローナ地区への実質的な追放を言い渡されたときも、周囲には何の感情も見せずにやり過ごしてきた。しかし、そんな俺ですら今回ばかりは怒鳴りたい衝動に駆られる。

「ヴィラム殿下。こちらの書簡に書かれた内容ですが、正気でしょうか?」
「封書だった故、私も今初めて内容を知ったのだが、父上はいつもと変わらないように見えた」

 内容を今知ったというのは本当のようで、ヴィラム殿下は少し青ざめた表情をしていた。

「そうですか」

 俺ははあっと息を吐く。
 いつもと変わらない。