「聖女様、そろそろ……」

 後ろに立つ近衛騎士のひとりが、そろそろ行こうとルイーナ様を促す。ルイーナ様は「わかったわ」と言って立ち上がると、再び乗ってきた馬車へと消えていった。

    ◆ ◆ ◆

 ──ヴィラム殿下が新聖女のルイーナと共に、セローナを訪問する。

 そんな知らせを受けたのは、僅か数日前のことだった。
 王室の近衛騎士が早馬を走らせてきたので何事かと思えば、ふたりの来訪を告げる先触れだった。しかも、届いたときには既に王都であるチェキーナを出ているという急っぷりだ。

「どうなっている?」

 近衛騎士が届けてきた書簡を見つめ、俺は呟く。
 王室関係者が地方の視察を行うことは時々ある。しかし、半年以上前から綿密に計画されるのが通常だ。間違ってもこんな、「既に王宮を出たから後はよろしく」的なことはしない。

「急に来訪を決めたのでしょうね」

 執務室のソファーセットに向かい合って座るロベルトも俺と同じように感じたようだ。

「私の考えでは──」

 ロベルトは前置きをしてから、慎重に選ぶように言葉を紡ぐ。

「ヴィラム殿下はこのような無計画なことを、こちらの負担も考えずに行う方ではないかと。さらに、決まったばかりの新聖女様までご一緒だなんて……。これは、なんらかのこうせざるを得ない理由があったのではないかと」