配達先であるセローナ大聖堂までは、人通りの多い目抜き通りを歩いて五分ほどだ。途中には、たくさんの飲食店や日常雑貨品の店舗が軒を連ねている。

「エリーちゃん、今日もお手伝いなの? 偉いねえ」
「はい。セローナ大聖堂にお届け物に行きます」
「気を付けてね」

 歩いている途中、すっかり顔なじみになった商店街の人達が声をかけてくる。その一人ひとりに「こんにちはー」と挨拶を返しながら、私は歩いた。

 大聖堂に到着すると、彫刻が施された両開きの大きな扉の片側をそっと開く。
 今の時間は礼拝する人がいないのか、中はシーンと静まりかえっていた。

「こんにちは!」

 中に向かって大きな声で叫ぶ。すると、コツコツと奥から足音が聞こえてきた。

「おや、こんにちは。アリエッタ」

 年齢を感じさせるしわがれた声で優しく声をかけてきたのは、ここセローナ大聖堂のブルノ大司教だ。今日もいつもの白い長着の上から黒い上着を重ねるスタイルの司教独特の服を着ており、頭の上には上着と同じ黒い丸帽子が乗っていた。そして、胸には花のマークが付いている。