『魔獣』という言葉に反応したのか、ダイニングテーブルの近くで寝そべっていたザクリーンがぴくりと耳を揺らして顔を上げる。けれど、すぐにまた頭を床に付けると目を瞑って眠ってしまった。

 ちなみに、アメイリの森があるお陰でセローナ地区には神聖力が多く溢れており、ザクリーンを始めとする聖獣達はそこから力を得ることができるらしい。

「傷薬は任務中、持ち歩いているの?」
「全員ではないが、そうしている者もいるな。小さな入れ物に入れて持ち歩くんだ。あとは、医務担当官は必ず持ち歩く」

 食事の手を止めて立ち上がったイラリオさんは、サイドボードに歩み寄る。そこから取り出して「これだよ」と見せてくれたのは、手のひらサイズの四角い革製バックだった。

「中を見てもいい?」
「もちろん」

 蓋を開けて中を見てみると、丸い金属ケースに入れられた傷薬、一メートルほどの長さに切られた包帯、三回分のガーゼ、および、一回分の回復薬が入っていた。

「邪魔になるから俺は殆ど持ち歩かない。俺は火の精霊の加護持ちだから、血が止まらなければ魔法で傷口を焼いて事務所に戻れば処置できるからな」

 血が止まらなかったら、傷口を焼く? なんだかとっても痛そうだ。

 またポークソテーを頬張り始めたイラリオさんは何かを思い出したようにふと手を止めた。