(それなら、ザクリーンにも迷惑はかからないな……)

 元々殆どなかった気持ちの迷いが、完全に振り払われる。
 聖獣はまるで俺の動きを待つかのように、頭をこちらに差し出している。覚悟を決めて聖獣の額に手を触れると、毛並みのふわりとした感触がした。

「我の命を助けた見返りに、そなたと契約を結ぶことに合意する。そなたは?」
「俺もだ」

 そう言った瞬間、聖獣の額に載せていた手が鈍く光る。

 ──我、ザクリーンはイラリオ=カミーユと聖なる契約を結ぶ。

 頭に直接響くような声がした。

「これで我はイラリオの相棒であり、またイラリオは我の相棒である」

 手の甲に、菱形のような不思議な紋様が現れた。
 俺はザクリーンに乗せていた手をどける。ザクリーンの額にも、俺の手の甲に描かれたのと同じような紋様が入っていた。

 それと、見た目の変化意外にもうひとつ。この聖獣──ザクリーンの感情がなんとなく伝わってきたような気がした。俺を確かに信頼してくれているような。

(本当に、契約したんだな……)

 俺は右手の甲にある紋様を、反対側の手でそっとなぞる。