イラリオさんが指さした先をみる。藁が敷かれた上に、大きな白銀の毛並みが見えた。
 その姿を近距離で見て、私は驚いた。

「この子……」
「ん? どうかしたか?」

 私の様子がおかしいことに気付いたイラリオさんが怪訝な顔をして覗き込んでくる。

「あ、ううん。何でもないの。変わった姿をしているなって思って、驚いただけ」

 私は咄嗟に、愛想笑いをして両手を胸の前でひらひらと振る。
 けれど、内心は動揺を隠すので必死だった。

 獣舎の部屋の端から端まで届いてしまいそうに大きな体は、二メートル以上はありそうに見える。真っ白な毛並みは、色は違えど稔りの季節の麦畑を彷彿とさせた。そして、その背中からは大きな翼が生えている。

 そこにいた聖獣は、私がこんな姿になったあの日に現れた不思議な聖獣と瓜ふたつだったのだ。
 ただ、怪我をしているようで白い毛並みの至る所が血が固まった茶色に染まっていた。

 イラリオさんは私の反応に不思議そうな顔をしたけれど、特に追及してくることもなくその聖獣へと視線を移す。

「こんなに立派な聖獣を見るのは、俺も始めてだ。小さな頃に見た、聖騎士が連れていた聖獣より大きいかもしれない」
「聖騎士が連れていた聖獣?」

 私は首を傾げる。

「ああ。もうずっと昔のことだ。極一部の聖騎士は聖獣と契約を結ぶことができると言われている。特に、聖女の護衛を務める聖騎士は聖獣と契約していることが比較的多いんだ」
「ふうん」

 私はイラリオさんの横顔を見つめる。