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列式者が思い思いに写真撮影をしている中、休憩している兄を見つけた。


「主役が何してるの」


「こういう場って慣れないんだよ」


「何言ってんの。一生に一度のゆかなさんのウエディング姿を目に焼きつけなよ。……あー、私も早くウエディングドレス着たいなー」


ゆかなさんみたいに綺麗に着れないかもしれないけど、それでも憧れる。

今日、それを強く思った。


「ダメ。結咲は一生着なくていいよ。俺のために着てくれるなら許すけど」


「はぁ?着るし!」


結婚しても兄は変わらない。

相変わらずのシスコンっぷり。


だけど、その言葉の半分は冗談。



「せっかく、幸せになって良かったねー、って祝福しに来たのに」


「俺は、結咲を好きになった時から幸せだよ」

ふっと笑みを零した兄。


「……『ゆうが幸せにしてあげる』──結咲がそう言ったんだ」


「え……?」


「ずっと空っぽだった俺に、結咲が『ゆうでいっぱいになれば、空っぽじゃなくなって、幸せになれるよ』って言った。

だからその通りに結咲だけを考えて、好きになった」


目に宿るのは、切なさ……なんかではなく、昔を懐かしむような穏やかさだった。


偲び慈しむ兄のその目に、言い表せない温もりを感じた。