「これから先、傷付くことは山ほどある。

失恋、別れ、喧嘩、心無い言葉……それらすべてから守ることはできない。それはわかってる。

だけど、結咲がどうしようもないことで傷付くことだけは耐えられない」


ぎゅっと結んだ唇を解いた兄は、



「この傷……、時原に見せられるか?」



そう言って、服の上から私のお腹に触れた。


ビクンと身体が反応する。


……触れられたからではない。

兄のその言葉が、私のすべてを見透かしているようだったから。



「付き合うってそういうことだ。自分の嫌な部分も見せていかないといけない。


結咲のこの傷を見て、同情する人、不憫に思う人、気にならない人──それぞれいるだろう。


だけど、世の中いい奴だけじゃない。厳しいことを言うようだけどな……この傷に嫌悪感を抱く奴だっている。

……これは結咲のせいじゃない。それでも、それがわからない奴が一定数いる。


結咲にとってそいつが大切な奴だったら、大切に想った分だけ結咲が傷付く。

俺は、それが1番怖い」