心苦しくなって、目を逸らすように瞬きをした。瞬間。

溜めきれなかった涙が溢れた。


きつく目を瞑った私。


「……っ、それでも、私は……お兄ちゃんの人生に、責任が持てない」


涙声にならないのように抑えた声は、か細く空気に溶けていく。



兄はゆっくり顔を上げて、

「そんなのいらない」と無理に口元を緩めた。


「結咲を幸せにすることだけが俺の人生だから」


あまりにも危うい言葉だった。


まるで私がいなくなったら、自分もいなくなるみたいな……。

背筋に冷たいものが走るほど、恐ろしい。


“これからは私のいない人生を考えて”

だから、その言葉が出なかった。



「……そこまで私のことを考えてくれるなら、私の本当の幸せを願ってよ」


それでも口から出るのは、兄にとって厳しい言葉。


本当の幸せ──それは、兄に幸せにしてもらうことではない。


「わかってるよ、結咲に俺が必要ないことくらい……」と案の定、寂しそうな目を見せた。

けど、続いた言葉は力強かった。


「でもな、俺は、また結咲が傷付くようなことがあった時、自分が何もできなかったら絶対後悔する」


「傷……?」