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夏目が帰った後、少しだけボーッとしていたが、意識を戻すと急に周りの音が入ってくる。


小鳥のさえずりや木の葉の擦れる音……なんて優しいものではなくて。

車の走行音や吹奏楽部の統一性のない練習音、時間を知らせるチャイム音。

……現実に引き戻された気がした。



思い返してみると、改めて、自分ではない他人の過去を見ているみたいだ。

俺はこんな人間だったかなと疑問にすら思う。


最初からなくてもいい。

捨ててもそれに執着しない。


……そうだったはずなのにね。



今までこんなことあったかな。

何かに欲張りになることはあったかな。


1つあるとすれば和奏や爽との関係。

“関係を壊したくない”というわがままと“関係を壊してでも向き合いたい”っていう自分勝手な思い。


だけど、あの時よりもっと、深くて濃くて強い。

一歩間違えれば、醜さに堕ちかねない。