「真崎のこと『好きじゃない』って言ったのは……嘘」


「……っ。それは、真崎先輩のことが……、好き、ってことですか?」


震える声で言った夏目の言葉に、俺は頷いた。


「どうして……っ」


「あの時、真崎がいたから本当のことが言えなかった。ごめんね」


「……私、先輩の言葉を信じて」


そこで言葉を切った夏目。

その瞬間、目に溜めていた涙がツーと流れ落ちた。


「最初に先輩と話した時から好きでした。


ずっと男子は恐怖の対象でしかなかったのに、時原先輩にはそんな感情が一切なくて。

ゆるくて温かくて、優しい先輩の空気が好きでした」


一点を見つめたまま。涙を拭こうともせず。

ひと粒、またひと粒と流れる涙に乗せて、溢れる感情を言葉で紡いでいく。


「あまり笑わない先輩だけど、何度か笑顔を見たことがあって。それがほんとに好きだった。


……でも、今考えれば、いつだってその笑顔の先には真崎先輩がいた気がします。

わかっていたはずなのに、視界に入れないようにして……。


時原先輩も真崎先輩も。お互い『好きじゃない』って言うから……。

その言葉だけを信じた」


目を合わせようとしない。

視線は終始、俺の胸辺りを向いていた。