……が、それより先に。

呆然と言える状態の兄の手が落ちた。


──っ、チャンス!


その瞬間を狙って、私はドアを力いっぱい押して閉めた。

ガチャリ。鍵もかけた。


「おい、結咲っ!」


ドンッと1回だけドアを拳で叩く音がしたけど、無視。


耳を澄ますと、遠ざかる兄の足音が聞こえた。


……良かった。

一旦、胸を撫で下ろす。


同じ家に住んでいる限り、安心はできないけど。とりあえず、ね。



その後、爽から電話が来て今日のことを話した私は……、

兄が出かけたことに気付かなかった。



そして。


約9年──ほぼ毎日家に帰ってきていた兄が、その日の夜は帰らなかった。