***
その日の夜。
コンコンとノック音がして、自室にいた私は何気なしにドアを開ける。
目の前に立っていたのは、顔に影を落とす兄だった。
帰ったばかりなのかまだスーツ姿。
「なんで嘘ついた」
強い口調が耳を貫いて、ピクッと肩を上げる。
「嘘って……」
「浅香を待たせてるって。……あの後、浅香と会ったんだけど」
……私の嘘は詰めが甘かった。
咄嗟のことだし、あの時は時原と待ち合わせして急いでいたからしょうがないけど。
嘘がバレたのは、まあいい。
それよりなんだろう。
兄のこの曇った表情は……。
嘘つかれていたことへの不服さ?
「嘘ついたことは謝るけど……、でもお兄ちゃんには関係ない──」
「わけねぇだろ。1人で帰るならそう言えば良かったじゃねぇか」
その言葉に俯いてしまう。
そりゃそうなんだけどさ。
……そっちも“嘘”だから。
口籠る私に、次の瞬間。
衝撃的な言葉が届く。
「それとも……、時原と一緒だから言えなかった?」
その日の夜。
コンコンとノック音がして、自室にいた私は何気なしにドアを開ける。
目の前に立っていたのは、顔に影を落とす兄だった。
帰ったばかりなのかまだスーツ姿。
「なんで嘘ついた」
強い口調が耳を貫いて、ピクッと肩を上げる。
「嘘って……」
「浅香を待たせてるって。……あの後、浅香と会ったんだけど」
……私の嘘は詰めが甘かった。
咄嗟のことだし、あの時は時原と待ち合わせして急いでいたからしょうがないけど。
嘘がバレたのは、まあいい。
それよりなんだろう。
兄のこの曇った表情は……。
嘘つかれていたことへの不服さ?
「嘘ついたことは謝るけど……、でもお兄ちゃんには関係ない──」
「わけねぇだろ。1人で帰るならそう言えば良かったじゃねぇか」
その言葉に俯いてしまう。
そりゃそうなんだけどさ。
……そっちも“嘘”だから。
口籠る私に、次の瞬間。
衝撃的な言葉が届く。
「それとも……、時原と一緒だから言えなかった?」



