妹を溺愛する兄が先に結婚しました

駅の改札を通る時に手を離してくれたけど、電車に乗っても口は開こうとしなかった。


時原は元々口数が多い方ではないから、沈黙は気にならないんだけど。

いつもと違う雰囲気を感じ取ったので、私も何も話せなかった。


やがて時原が降りる駅に到着。


プシューと空気の抜けるような音と共に電車の扉が開いたが、立って手すりを掴んだまま動こうとしない時原。


「……降りないの?」


「家まで送る」


「え、そんな。悪いよ」


「送らせて」


まっすぐ目を見て言われたので、コクリと頷いた。



電車を降りて、家までの道を歩く。


見慣れた道も隣にいる人が違うだけで、全然違って見える。


看板とか、家の表札とか。

いつもは視界に入っても気にしなかった、電柱の住所さえも気になる。



すると、駅から半分くらい来た辺りだろうか。


ぽつっと頭に水滴が落ちた……気がした。


上を向くと、今度は目の下に落ちる。


「雨……?」


隣を歩く時原が手のひらを上にして、呟いた。


ぽつぽつと数を増やして落ちてくる雫は、すぐにザーという音を立てるくらいに降り注いだ。