妹を溺愛する兄が先に結婚しました

「なんでって……」


ぶっ壊したいって言われて会いたいと思うわけないでしょ。

……と口を開きかけた時。


信じられない言葉が私の耳に届いた。


「ああ。またキスされたら困るから?」


口元を緩めて余裕をかます折部くん。


思わず不快感をそのまま表情に出してしまった。


「はぁ?されてないし!」


「そうだっけ」



ふと。

私の前に大きな背中が現れて、視界を遮られた。


「もういい?」


顔が見えないからわからないけど、冷たい声に感情は乗っていないように思う。


時原のそんな声を聞くのは初めてで、背筋に冷たいものが走るような感覚に襲われる。



「真崎、帰ろう」


折部くんの返答を待たずに私の手を取って時原が歩き出したので、手を引かれるままに私も足を進めた。


振り返らず。時原の少し寂しそうな背中をただ見つめ続けた。