和奏が戻った後。あまりの心地よさにしばらく裏庭にいたら……時原が来て、抱き締められた。


ビックリしてあたふたしちゃったけど……。

『真崎が辛い時、傍にいてやれなくてごめん』

そう言われて、思わず弱音を吐いて泣きまくった。


また時原の前で泣いちゃったことが恥ずかしかった。


でも、今思い返して頭に浮かぶのは、抱き締められたことへの照れ。

まだあの時の感覚が残っているから、思い出す度に悶えたくなる。



「怪しい」


兄の声にハッとする。


いつの間にか目の前に迫っていた兄が、疑い深いで見てくる。


「ほ、ほんとだって」


「こういう時の兄の勘は当たるぞ」


……当たらなくていいから。



すると、そんな兄が急に、

「あ、忘れ物」と思いついたように言った。


なんなの?


あからさますぎる態度。不思議に思いながらも宿へ戻る兄の背中を見送ると、

入れ替わるように出てきた人物に目をむく。


……なるほど。

だから、急に『忘れ物』なんて嘘ついたんだ。



出てきたのは、爽。


運動用のTシャツとズボンを着て、長い黒髪を1つに結っている。


「おはよう」


ここで無視するのもおかしいからぎこちなく挨拶する。