……爽がいなければ、和奏はこのまま電車に乗って私と同じ駅で降りたんだろうけど。


爽がいる時は家に帰るふりをしないといけないから、

一度自分の家の最寄り駅で降りて、その後、私の家へ来る。


同情はしないけど、そんな生活をしていてよくバレないよなとは思う。



その日の夜。


家の中で和奏を探していると、洗面所で見つけた。


「わかなー」


「っ!」


声をかけた瞬間。


「──っむぐ!」


驚いて振り返った和奏に口を塞がれた。


なに⁉


驚く私を余所に、誰かに話しかける和奏。


「いや、なんでもない。……うん、わかった。じゃあまた」


スマホを切って、私の口から手を離した。


「ごめん。電話中だったんだね」


「ビビったー。俺もごめん、いきなり口塞いで。

……それで、なに?」


「先にシャワー浴びてって言おうと思っただけなんだけど……」


「オッケー」


和奏がすぐさま屈託ない笑顔に戻したので、何も聞かず洗面所を出た。



……電話の相手、誰だったんだろう?