静かに聞いていた兄は、少し考えた後。


大きくため息を吐いた。



「……とりあえず一晩だけだ。ちゃんと連絡は入れておけ」


ゆかなさんの必死さに折れた。


冷たいことを言っても、兄は兄なりに心配していたのかもしれない。


「ゆかな」


「はいっ……」


「今後のことは、明日旭の家に行って話してから決める」


兄はそれだけ言い残して、リビングへ戻った。


小さく「ごめんなさい」と呟いたゆかなさんの言葉を、私は聞き逃さなかった。



ゆかなさんと和奏の事情も気になるけど、

ゆかなさんと兄の関係も気になっている。


夫婦なのに、たまにお互い複雑そうな顔をする。



***



リビングのソファで兄が考え込んでいたので、背後に回ってソファの背もたれに腕を置いた。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「……『家にはちゃんと帰れ』だってね。どの口が言ってんの?」


「お兄ちゃんの過去の傷を抉らないの」


「傷扱いなんだ」