家に来る時はいつも連絡を入れるのに、今日はアポなし。珍しい。


そんなことを考えていると、

ドアの開く音がしてすぐ、玄関の方から荒げるような声がした。


ダイニングのテーブルでスマホをいじっていた私は顔を上げて、母と目を見合わせる。


何かあったっぽいので、家族みんな、ぞろぞろと玄関へ移動した。



「どうしたの……──って、和奏くん⁉」


棒立ちで俯く和奏と、そんな和奏に寄り添うゆかなさんの背中が視界に入った。


私たちの足音に誘われて振り返ったゆかなさんの表情は酷く険しい。


だけど、それ以上に和奏の顔が怖かった。

悔しさと怒りが混ざったような表情。


初めて見る表情(かお)だった。



それだけじゃない。


髪をワックスで整え、上品なスーツを着こなす余所行きの恰好。


一瞬、和奏じゃなくて大人の男性に見えた。



母たちが和奏の何に驚愕したのかわからない。

恰好か表情か。とにかく視界に入るすべてが異常だった。



すると、和奏は突然、腰を落とした。


「お願いしますっ!俺をしばらく泊めてください!」


土下座をし、荒ぶる感情のままにそう叫んだ。



「ちょっと、和奏くん。何があったの?」


「お願いします!」


ただひたすらに頭を下げてお願いする和奏。


いつも場を楽しませる元気な和奏のこんな姿を見たのは初めてで、見てられないくらい心苦しくなる。