【2月27日単行本発売!】5時からヒロイン

秋は急速に深まって行き、朝晩は冷え込む日が多くなってきた。
何だか物悲しくなるのは、赤く色づいた葉が枯れて落葉となり、何も覆うものがなくなった木が寒そうだからだろうか。
園遊会が催される中庭は、メンテナンス会社の方々総出で、落葉を掃除してくれているけれど、箒で掃いても掃いても落ちてくる葉に、うんざりしているのではないかと思うこの頃だ。
毎日同じことの繰り返しで、時間だけは早く過ぎてゆく。私の綺麗な時間は、一分一秒過ぎて無くなっていく現実がある。
秋は読書の季節というが、そんなすきま時間もなく来てしまったけど、今年は違った秋を過ごしたい。

「はぁ~」

別に疲れているわけでも、悲しいわけでも、思い悩んでいるわけでもないけど、ため息がでる。恋煩いって、成就してもあるのだろうか。

「何をため息ついているんだ?」
「社長」

二人の時間がなかなかできない私達だったけど、こうして会社で一日中傍にいられるんだからと、言い聞かせ少しは満足していた。
なぜ少しなのかと言うと、デートが出来ていないからだ。会社でも社長と一緒だから、不満が爆発しないのかもしれない。

「疲れたのか?」
「あ、いいえ、そんなんじゃなくて、なんとなくです」
「ならいいが」

いつだって私の身体を心配してくれて、デートよりもそういう気遣いが嬉しい。

「何か御用でしょうか?」
「ああ、園遊会の賞品だが、候補は?」
「そうでした、ご報告が遅くなり大変申し訳ありません。あの、秘書課にも相談したんですが、ホテルの断食プログラムはいかがでしょうか?」

捻挫に胃腸炎と騒がしく、すっかり報告を忘れていた。園遊会は今月末に催されるのになんていうことか。
秘書課で知恵を出し合ってくれていたらしく、なかなか趣向を凝らした賞品が提案されていた。
みんなで投票した結果、断食プログラムになった。

「断食?」
「そうなんです。私も存じ上げなかったのですが、予約を開始するとあっという間に埋まってしまう人気のプランだそうです」
「どこのホテルだ?」
「プレシャスホテルです」
「そんなのあったんだな」

プレシャスホテルは、パーティーや懇親会、海外から来日するお客様の宿として、ファイブスターが利用しているホテルだ。

「いかがでしょう?」
「いいな、予約を入れてくれないか?」
「それが……」
「どうかしたのか?」
「既に予約が埋まってしまいまして……その予約も毎月1日から10日の間にネットから予約を入れる仕組みになっていて、毎月5組の予約枠なんです。すでに来年の春まで埋まっていました。ご報告も遅れたうえに、賞品も用意できませんで、大変申し訳ございません」

会社を揺るがすような失敗ではないけど、秘書の仕事としては大失態だ。手帳にも書きこんでおいたのに忘れるなんて、恋にうつつを抜かしていたからだ。

「いつも自分で決めていたのに、急に頼んだりした私もいけなかったし、声を掛けなかった私にも落ち度がある。たいしたことじゃないんだからそんなに落ち込まなくていい」
「ですが」
「キャンセル待ちか?」
「はい……ですが、キャンセル待ちを賞品にするわけには……」
「分かった、私が何とかしておく」
「ありがとうございます」

社長がホテルの支配人に電話をするんだろう。世の中は力のある者が全てなんだって、新入社員の頃は思ったものだけど、権力は社会に必要な物だと思うようにもなった。
特別扱いが当たり前だと思わないけど、そういうことをして経済って回るんだと、秘書になって感じたことだった。

「俺こそお礼を言いたいよ」
「え?」
「正直言って毎年、悩みの種だったんだ。社員万人に喜ばれるものなんかそうはない。一番簡単な賞品は会長と取締役に取られてしまっているからな」

確かにその通りだ。食事券などの金券は一番喜ばれる。役員全員が金券を出すのも味気ないと、社長は品物などを毎年考えていた。

「そうだったんですね」
「今年は君に相談してみようと思っていたんだ。だから気にすることはないんだよ」
「はい」

仕事の話をしながらも、社長の目は優しい。その優しさに甘えたらダメだけど、今回は甘えてしまおう。