その日、私は困り果てていた。

学校から帰宅し、母親におつかいを頼まれ、制服のままドラッグストアまでやって来た。
ここまでは何も問題ない。よくある話だ。

だが、よくある話でないこともいくつか生じていたのである。

一つは、店に着いてすぐ、夕立が降りだしたこと。
それはもう、とんでもない勢いで。
家を出るときは絵に描いたような真夏の晴れ空だったので、予知能力などない私は当然傘を持ってきてなかった。
部活用のバッグには折り畳み傘が入ってるのに…
うらめしく思っても仕方ない。
ここは、天気が機嫌を戻すまで待つしかないだろう。
どうせ家にいる母親は忙しくて迎えになんか来られないだろうし。


そして二つめのよくある話ではないことは、このドラッグストアに同じ高校の男子も来ていたということだ。
私と同じ一年でありながら、地味でごくごく一般生徒の私とは違い、彼は、校内で知らない人はいないというほどの有名人であった。
制服のままで手ぶらなところを見ると、私みたいに一旦家に戻ってからここに来たのだろう。
片手にメモっぽい物を持っているから、これも私と同じで、買い物を頼まれたのかもしれない。
そして更に私と同じく、どうやら傘を持ってないようで、この夕立で足止めを食らった様子だった。

イケメンで長身、頭脳明晰スポーツ万能、人柄もよく、男女問わず大人気の彼。
そんな彼の情報は、クラスが違う私にまで聞こえてきていた。
と言っても、近くの席の目立つタイプの女子達が盛り上がってたのを小耳に挟んだだけなのだが。
だがそれによると、確か、彼の家はこの近所ではないはずなのに…
あの情報は誤りだったのだろうか?


いや、今はそんなことどうでもいい。
問題は、私を知る人間がこの店内にいるということだ。
傍から見れば、それの何が問題なのかと不思議がられるかもしれないが、今の私にとっては大問題だった。
なぜなら、私が母親から頼まれた買い物は、オムツだったからだ。
15歳年下の妹のための。