「織くんがうちのエレベーターに乗ってるって不思議な感じ」


「うん。ちょっと緊張する」


織くんには『緊張』って単語がやっぱり似合わなくてちょっぴりおかしくて。


「フフッ」と我慢できなくて笑ってしまう。


よく使い慣れたエレベーターで推しとふたりきりなんて、くすぐったい感じ。


学校近くのバス停からバスに乗り、数分歩いて着いたマンション。


2ヶ月ぶりのマンションのエレベーターに、ずっと憧れていた織くんと乗ることになるなんて。


人生なにがあるか本当にわかんない。


自宅のある5階に降りてうちへと向かう。


「ここがうち」


【502】白井


隣の表札にそう書かれたドアの前に立ち、バックから鍵を取り出す。


「今更だけど、いいのかな。俺、入っても」


「えっ、なんで!!外寒いし!!入ってもらわないと逆に困るよ!!織くんをこんな極寒の中待たせるなんて!!無理です!!」


そう言えば、織くんが「極寒は大げさ」とまた笑う。


この笑顔が大好きだ。


「ありがとう」と織くんが言ってくれて、鍵を鍵穴に差した時だった。


「……初花?」


懐かしい声に名前を呼ばれて、心臓がドクンと鳴った。