ずっと、カンナちゃんのことが好きだった。
幼馴染だから?姉妹みたいに慕ってたから?そんなんじゃない。
誰よりも何よりも、この世界で一番愛してた。

小学生になって、周りが好きな男の子の話で盛り上がり始める頃、その頃から私はカンナちゃんを「好きな人」として意識していたように思う。

カンナちゃんがとーか君を好きなことも、とーか君がカンナちゃんを好きなことにもとっくに気がついていた。
悔しくて堪らなかった。
男に産まれたってだけでカンナちゃんの恋人になれるとーか君が憎くて堪らなかった。

あの夜、ここに呼び出したカンナちゃんに、もう何度目かの告白をした。あの夜は、私にとっての賭けだった。
もしもカンナちゃんが私の気持ちに応えてくれるなら、ううん。応えてくれなくてもいい。
せめてとーか君と別れてさえくれたら。

カンナちゃんの前だけでも今までの三人と同じ、二人が望む「つばき」を演じ続けようと思った。

初めてじゃない私の告白を、カンナちゃんはまた笑って受け流した。

だけど、いつもと違ったのは、カンナちゃんがあの日、この防波堤で私にキスをしたこと。

どうしてもカンナちゃんのことが好きなの。恋人同士の二人を見続けることなんて堪えられない。そう懇願した私の唇に、カンナちゃんはそっと自分の唇を寄せた。
つばきのことも大好きだよ。大切だよって。

「そんなに私のこと、想ってくれるのね。ありがとう。嬉しい。だからご褒美だよ。」って。

そしてカンナちゃんは、最後に私に突きつけた。

「でも透華くんの方がもっと好きなの。透華くんは男の子だから。つばきとは人前でこういうこと、出来ないじゃない。」

そう言って、見たことないくらい可愛い笑顔でカンナちゃんは笑った。

カンナちゃんがくれたキスを、私はもう忘れることはできない。絶対に自分の物にはなってくれないのに。
カンナちゃんはとびっきりの傷を、私に残した。

自分の物にならないのなら、この手で殺してしまおうと思った。生きているカンナちゃんが手に入らないのなら、カンナちゃんの命の最後は、私の物にしたかった。

この世で一番大切な物を、どれだけ望んでも私は手に入れることは出来ない。カンナちゃんさえ居ればいいのに。それだけで、他の物なんて何も要らないのに。

この町でだって生きてこれたのは、カンナちゃんが傍に居てくれたからだよ。
どんな娯楽も快楽も、美しい物も要らない。
カンナちゃんだけが私の宝物。

その命ごと奪えるかもって思ったら、それ以上に素晴らしいことなんて無いように思えた。

邪魔だったのはこの男の方。
カンナちゃんを殺して、この男のことも殺してやろうって決めた。私とカンナちゃんを引き裂いたコイツを。

とーか君が私を恨むことは当然で、絶対に復讐してくることなんて目に見えていた。好きなふりをすることなんて楽勝だった。
私を油断させた気になって、自分が陥れられていることに気づいていない姿は痛快だった。

アイツが私を好きになるふりをしてきた時、滑稽だなぁって思ってた。とーか君が私を好きになるはずがない。私の演技にこんなにも早く乗っかってくれるなんて。
私を油断させる為だって、すぐに分かった。
その演技ならいくらでも喜んで受け入れようって思った。

とーか君とキスをするたびに、好きだって言うたびに、抱き締めるたびに、自分自身やカンナちゃんの面影が死んでいくような気がした。

この先に待つ復讐を思えば、いくらでも我慢出来る。どれだけ体を穢しても精神を削っても、カンナちゃんとの綺麗な思い出の為に。どれだけ汚れたっていい。