「ねぇ、ちゃんと見て。」

つばきがもう一度、指をさす。
何も無いことなんてとっくに分かりきっている海を、底まで覗き込む様に凝視した。
そこにカンナの最期の姿を探す様に。

カンナ。どんなに苦しくて、どんなに悔しかったか。
なんでつばきに内緒で話してくれなかったのだろうと何度も思った。
つばきと二人きりにはなるなって、絶対に俺から離れるなって、もっと強く言い聞かせていれば良かった。

カンナが思うよりも、俺はずっと弱くて臆病だ。
守れなくてごめん。俺だって、カンナの未来を奪ったんだ。

復讐を果たしても、きっとカンナも俺も、つばきも救われない。報われる命なんて無い。
それでも俺は…。

「とーか君。」

「あ…。」

その瞬間だった。
ふわっと体が宙に浮いたかと思うと、足が防波堤から離れた。

後はもう分からない。
スローモーションの様に水面が近づいてくる。

「カンナ…愛してるよ。」

声になったかも分からないけれど、ハッキリと覚えているのは、夜の海岸に響いた水飛沫の音だけだ。