放課後になって、教室に俺とその女子だけになったのを見計らう様に、つばきが教室に入ってきた。

まだ女子を睨み付ける様に見ているつばきが開口一番に「説明して。」と言ってきた。

「この子と二人だけで話がしたくて、三時間目をサボれるように体調が悪いふりをしたんだ。女子だと支えるのが大変だろうからって俺が支える演技をして。だからつばきからは…抱き合ってる様に見えたんだよ。」

「は?何の為に?」

「だから、二人で話をしたくて…」

「違う!何の為に二人で話す必要があったの?誰かに聞かれたらマズいってことだよね?特に私には!」

つばきがヒステリーに声を荒げる。女子は何も言えないままつばきを見ている。
驚くのも無理は無い。つばきの化けの皮が剥がれた瞬間だった。

いつもの穏やかな笑顔で誰にでも優しいつばきは、ここには居ない。

「そうだよ。他の人に、いや…、お前にだけは聞かれたくなかったから、わざわざつばきのクラスが移動教室の時に、念押しで他の人にも聞かれないように三時間目をサボろうとしたんだよ。」

面倒臭そうに言って溜め息をついた俺を、女子は気まずそうに見た。
本当に申し訳ないと思ったけれど、この際この状況を利用させてもらうことにした。

今はつばき自身、自分が優勢だと思っているだろう。でもそうじゃない。つばきが再び起こした悲劇の前兆も、全部復讐の為に使ってやる。

ここで引き下がるわけにはいかない。
俺の体裁がどうなっても。

あと数日すれば夏休みだ。これで最後。夏休みが終わる頃、きっと俺はここには戻らない。

早くカンナに逢いたい。

その為の手段だ。

「何をそんなにコソコソする必要があるの?それって…私を裏切ってるってことだよね?」

「裏切ったのはお前だろ。」

「は?私がいつとーか君を裏切ったの?そんなこと…!」

「謝れよ。この子に。」

俺が隣に立つ女子をチラッと見た。急に話の中心にされた女子は慌てている。
あと少しだけ…我慢してくれ。

「何で私が?私の方が謝って欲しいよ。浮気みたいなことされてんのに!」

「嫌がらせしただろ、この子に。靴隠したり、教科書捨てたり。よく高校生にもなってそんな幼稚なこと出来るよな。恥ずかしくないの?」

「知らないよ、そんなこと。私やってない。」

つばきは引き下がらない。でも俺には分かっている。つばきがすぐに認めるってことを。つばきは忘れたのだろうか。
俺がつばきの地雷を握っていることを。