「もういいよ。」

つばきの左手からカッターナイフを取って、床に放り投げた。そのままつばきを押し倒す。

「とーか君…!」

つばきの首筋に指先を這わす。胸元が微かに上下していて、つばきの呼吸を感じた。
心臓の辺りに手のひらを乗せると、僅かにだけどトクン、トクンと鼓動が伝わってくる。

「生きてるな。」

首筋に這わせた指先で喉元に触れた。つばきは黙って俺の下でジッと見ている。

「…っ!!」

小さく漏れるつばきの声。言葉にはならない。
グッと力を込めた俺の手を引き剥がす様に自分の手で抵抗してくる。
つばきの爪が手の甲に食い込んでいるけれど、痛みなんて感じない。

歪む表情。バタつかせる四肢。つばきが噛み締める唇から赤い血が滲んだ。
その唇にキスをする。鉄の味がした。

つばきの目から涙が一筋流れた。感情なんかじゃない。生理現象だと思った。じゃなきゃ今までのつばきは全部嘘だ。
自分の命が惜しい奴が、殺人なんて絶対に認めない。

手の力をスッと抜いた。突然送られた酸素に、つばきは聞いたことの無い声を上げて、咳き込むことも出来ずに口をパクパクさせている。
夏祭りですくった金魚みたいだ。

流れるつばきの涙を指で拭って髪を撫でた。頬に触れるとつばきは体を大きく逸らして逃げようとした。
まだつばきの体は俺の下だから逃げられないけれど。

もう一度俺の方を無理やり向かせてから深く深くキスを繰り返す。その行為にちゃんと応えるつばき。バカな女だと思った。

唇を離してもつばきはもう逃げようとはしない。

「綺麗だったよ。」

声が出せないままつばきは泣き続けた。
一生忘れるなよ。俺の手でお前を殺してしまうまでの短い一生。

絶対に忘れさせてなんかやらないから。