挿絵の血液を撫でた時と同じ様に、慈しむ様につばきは薄い線になった痕をなぞる。

「痛かった?ごめんね。でもすごく、素敵だったよね。」

つばきはうっとりとした声で言った。俺は腕を引いてつばきにカッターナイフを手渡した。
不思議そうに見つめてカッターナイフを受け取ろうとしないつばきの左手を取って、俺はカッターナイフをつばきに握らせた。

「もう一度つばきの血が見たいんだ。」

「どうして?」

「つばきが生きてるって証が見たい。クセになっちゃったんだよね。」

つばきの瞳が揺れた。久しぶりに見るこの目。俺のこと、頭がおかしくなったとでも思っているのだろうか。別に間違ってはいないけれど、お前にだけは言われたくない。

カッターナイフを軽く握るつばきの左手を、上から更に握り返す。つばきの肩が上下に跳ねた。

「出来る?俺の頼みなら何でも聞いてくれるんだろ?」

「私の髪の毛が生きてる証拠だって言ったじゃない。私、とーか君の隣で生きてるよ。カンナちゃんとは違う。とーか君を残して死んだりしない。」

「お前が殺したくせに。」

「とーか君…意地悪言わないでよ。」

つばきがお得意の泣き出しそうな声を出す。
何を今更ビビってんだよ。何度自分の体を傷つけて、人の体を傷つけて、命まで奪ってきたんだよ。今更まともな人間のふりなんてするんじゃねぇよ。

「分かった。つばきはもう、そんなこと出来ないよな。…つまんねぇな。」

「出来るよ!ちゃんと出来るけど…、そんな錆びた刃じゃちゃんと切れないよ。」

「思いっきり強くやればいいじゃん。」

「強くって…。」

たった数ヶ月でこんなに人間って弱くなるんだな。本当に俺さえ手に入ればそれで良かったんだろうか?
あんなに強気だったくせに、俺の体や心だって随分と痛めつけたくせに、俺の言葉にこんなに怯えている。

恋は盲目。人を狂わせる。
そんなこと知るもんか。いくらつばきがまともな人間ぶったって、俺はどこまでも狂ってやる。
どこまでもつばきを堕としてやる。