「本当の目的は違うけどね。」

「どういうことだ?」

「言ったでしょ。カンナちゃんだけに話さなきゃいけないことがあるって言って呼び出したの。本当に、話さなきゃいけないことがあったから。どうして私がカンナちゃんに嫌がらせをしていたか。」

「何で…あんなことしたんだ?俺と別れろって書き殴りの紙を入れたり、小説を滅茶苦茶にしたり。カンナの球根を俺に押し付けようとしてきたり、嫌がらせのたびに付着していた血液もつばきのだろ?」

つばきはゆっくりと瞼を閉じて、三秒くらい目を閉じたまま、それからゆっくり目を開けた。
伏目がちに何かを考える素振りを見せてから、数回まばたきを繰り返した。


「とーか君のことが好きだったから。」

聞き慣れた声。聞き慣れない言葉。右の耳から入って左にすり抜けていく。
その言葉を聞いたまま、すぐに理解することが出来なかった。

「…は?」

素っ頓狂な声が自分から飛び出す。初めて聞く国の言葉みたいにちんぷんかんぷんだ。
この状況でまさかふざけているのか?

つばきの表情に変化は無い。
いつのまにこんなに大人びた表情をするようになっていたのだろうと、高校に入ってから何度も思ってきた。

見たことの無い表情や瞳の光。笑い方や口調。
そのどれもが俺を動揺させ、恐怖すら感じた。
今まで隠してきたのか、何かがつばきを変えたのか。

その原因は、俺だったのか?

「つばき、何言ってんの。」

「とーか君。カンナちゃんに言われなかった?思春期の女の子はとーか君が思っているよりも繊細で傷つきやすいの。」

「なぁ、俺は真面目に話してるんだよ。お前さ、分かってんの?つばき…お前は…、殺人犯なんだよ。」

「そうだよ。私は人殺し。大切な幼馴染を、この手で殺したの。とーか君が好きだから。あの女が邪魔だった。黙って別れてくれさえいれば、今までと変わらない関係でいられたのに。あの女が選ばれて、私が除け者なんて許せない。私はとーか君の為に血を流す覚悟もあるよ。そういう意味の警告だったんだけどな。」

制服から伸びる白い腕にも脚にもどこにも、今は絆創膏の痕も無い。腕に薄らと残る濁った白みたいな線だけが、あの日々を物語る。