「とーか君とカンナちゃんが花火大会に行った日。私、二人の誘いを断ったでしょ?とーか君にとってはその方が都合良かったと思うけど。」
つばきは見透かす様に笑っている。俺は何も答えなかった。
「あの日ね、学校に来たんだ。」
「学校に?」
「そう。図書室に用事があったの。夏休みでも図書室は開放されてるし、司書さんか図書委員の人は居るかと思って。」
「これか?」
俺は制服のズボンのポケットから、文庫本サイズの小説を取り出して、つばきに突き付けた。
つばきはその小説を手に取って、慈しむ様に、そっと撫でた。
「どうしてとーか君が?」
「カンナの親が、カンナの葬式…、密葬の後に俺の家に来たんだ。カンナの遺体に引っ掛かる様に、この小説が一緒に浮かんでたって。検視の間、警察署で預かられてたけど、その後に戻って来たんだって。波が立ってる中でこんな軽い物、ちゃんと残ってるなんて奇跡だと思うって、カンナのお母さんが言ってたよ。きっとカンナの形見だから、俺に持っていて欲しいって。」
「そっか。カンナちゃんの形見なら、私が欲しかったのに。」
その小説は、どのページも水分をたっぷり含んでしまったのだろう。一ページ一ページがまるで水面の様に波打って、通常の文庫本よりも膨らんでしまっている。
「お前が滅茶苦茶にした、あの童話と同じ物だよな?」
「そうだよ。」
「だったらそれ、お前にやるよ。俺は同じ物、もう持ってるから。」
「嫌味のつもり?」
つばきは苦虫を噛み潰した様な顔で俺を見た。
「この本が、何で遺体と一緒にあったか、お前は知ってるよな?」
つばきは小説を見つめたまま、静かに話し出した。
「街の本屋さんに行ったんだ。同じ物は見つけられなかったの。この文庫サイズしか…。それでも無いよりはマシだって思って、これを購入して、図書室に行ったの。私が滅茶苦茶にしてしまった物とは違うけど、図書室に返そうと思って。でも、司書さんは受け取ってくれなかった。」
「何で?」
「単純な話だよ。生徒から物は受け取れない。それがどんな理由だったとしても。それでも司書さんは、私の気持ちは受け取りますって言ってくれた。私がやったことは決して許されないけど、その気持ちは自分には伝わったって…。だから、だったらこの受け取ってもらえなかった本は、カンナちゃんにあげようって思ったの。」
「それであの日、カンナを呼び出したのか。」
つばきはフェンスに背中をつけた。フェンスがまた、カシャンっと音を立てた。屋上にはもちろん、運動場にも誰も居ない。吹奏楽部の演奏も聴こえてはこない。
式はまだまだ続きそうだ。どうせ校長の話が長いのだろう。
つばきは見透かす様に笑っている。俺は何も答えなかった。
「あの日ね、学校に来たんだ。」
「学校に?」
「そう。図書室に用事があったの。夏休みでも図書室は開放されてるし、司書さんか図書委員の人は居るかと思って。」
「これか?」
俺は制服のズボンのポケットから、文庫本サイズの小説を取り出して、つばきに突き付けた。
つばきはその小説を手に取って、慈しむ様に、そっと撫でた。
「どうしてとーか君が?」
「カンナの親が、カンナの葬式…、密葬の後に俺の家に来たんだ。カンナの遺体に引っ掛かる様に、この小説が一緒に浮かんでたって。検視の間、警察署で預かられてたけど、その後に戻って来たんだって。波が立ってる中でこんな軽い物、ちゃんと残ってるなんて奇跡だと思うって、カンナのお母さんが言ってたよ。きっとカンナの形見だから、俺に持っていて欲しいって。」
「そっか。カンナちゃんの形見なら、私が欲しかったのに。」
その小説は、どのページも水分をたっぷり含んでしまったのだろう。一ページ一ページがまるで水面の様に波打って、通常の文庫本よりも膨らんでしまっている。
「お前が滅茶苦茶にした、あの童話と同じ物だよな?」
「そうだよ。」
「だったらそれ、お前にやるよ。俺は同じ物、もう持ってるから。」
「嫌味のつもり?」
つばきは苦虫を噛み潰した様な顔で俺を見た。
「この本が、何で遺体と一緒にあったか、お前は知ってるよな?」
つばきは小説を見つめたまま、静かに話し出した。
「街の本屋さんに行ったんだ。同じ物は見つけられなかったの。この文庫サイズしか…。それでも無いよりはマシだって思って、これを購入して、図書室に行ったの。私が滅茶苦茶にしてしまった物とは違うけど、図書室に返そうと思って。でも、司書さんは受け取ってくれなかった。」
「何で?」
「単純な話だよ。生徒から物は受け取れない。それがどんな理由だったとしても。それでも司書さんは、私の気持ちは受け取りますって言ってくれた。私がやったことは決して許されないけど、その気持ちは自分には伝わったって…。だから、だったらこの受け取ってもらえなかった本は、カンナちゃんにあげようって思ったの。」
「それであの日、カンナを呼び出したのか。」
つばきはフェンスに背中をつけた。フェンスがまた、カシャンっと音を立てた。屋上にはもちろん、運動場にも誰も居ない。吹奏楽部の演奏も聴こえてはこない。
式はまだまだ続きそうだ。どうせ校長の話が長いのだろう。



