「何。」

鼓膜に張り付いたみたいに、つばきの声が近くに聞こえる。体の内側から鳴っているみたいな錯覚を覚える。

「カンナを殺しただろ。」

「何言ってるの。」

「カンナは事故や自殺で死んだんじゃない。殺されたんだよ。お前に。」

たった数秒の間が、永遠に続くんじゃないかと思った。昔のつばきらしく、悪戯が成功した子供みたいな顔をして笑い飛ばして誤魔化すんじゃないかって思ったけれど、違った。

「探偵にでもなったつもり?好きだもんね、男子って。探偵ごっこ。」

酷く冷たいその表情と声に、俺の感情や決意も強く固まっていく。もう絶対に、つばきを許さない。

「カンナが死んだって言ったあの日、カンナを呼び出した時間や場所も、カンナだけが事故に遭うのも不可解だ。事情聴取で警察に何て言ったか知らないけど、俺は信じない。俺は、本物の探偵や警察なんかじゃない。ドラマや小説みたいにお前がやったことを暴くことは出来ない。でも、お前のその態度や言動が何よりもの証拠だよ。お前はあの日、カンナを殺した。その手で。」

「何それ。そんな感情論突き付けられても私はどうすればいいの?そんなんで、はい私がやりましたって言うと思う?それが証拠とか、何でそんなこと堂々と言えるのよ。」

「幼馴染だからだよ。」

「は…。」

つばきの瞳が揺れる。ジッと俺の顔を見ていたつばきが、一瞬俺から視線を逸らした。

「幼馴染だからだよ。ずっとつばきやカンナを見てきた。俺達に血の繋がりは無い。兄妹なんかじゃない。それでも家族と同じくらい、お前達と一緒に居たんだよ。そんなお前の嘘なんて気づかないはずないだろ。周りを全員騙せても、俺は絶対に騙されない。」

ふ、とつばきが小さく息を漏らした。薄い笑みを浮かべて。

「カンナちゃんの為にそんな推理、一生懸命考えてたの?」

復讐の為に、とは言わなかった。
つばきが失くした何かを探すみたいな目をして屋上を見渡した。そのまま俺の顔に視線を戻して、諦めた様に笑った。

「そうだよ。私がカンナちゃんを殺したの。」

その答えが聞きたかったはずなのに、もう本当に戻れなくなったんだなと、心が揺れた。目の前のつばきが黒く歪んで見えた。

「だから、とーか君には本当のことを話してあげようと思って、カンナちゃんが死んだ日にとーか君のおうちまで行ったんだよ。」

「今、教えてくれ。本当のことを。」

「…いいよ。」