一年生の教室がある二階に上がる。階段ですれ違ったり、廊下で友達と話していた人達や、隣の教室も、自分の教室も、向かいのカンナの教室も、同級生が俺の姿を見つけるたびに目で追ったり、ヒソヒソと話したりする。

まるで自分が犯罪者にでもなったみたいだった。
その視線から逃れる様に教室に入って、自分の席で腕をまくらみたいにして、顔を伏せた。

後ろの席の男子が「大丈夫か?」と声を掛けてきた。その声を、俺は聞こえないふりをした。
彼にとっては優しさだったのだと思う。
それでもその声さえも、自分が非難されている音に聞こえてしまう。

「おはよう。」

ガラガラっと教室のドアの開く音がして、おはよう、と明るい声で聞こえた挨拶。
つばきだ。

つばきの挨拶に返事をする声も聞こえる。その声にはどれも、戸惑いが感じられた。

何で平気そうに振舞っているんだろう。
カンナのことはどうなったんだろう。
誰もがそう思っていたはずだ。

俺はゆっくりと顔を上げて、俺の席の前を通り過ぎていくつばきを見た。
いつもと変わらない笑顔を振りまいている。
つばきと仲の良い女子達がつばきの席の周りに集まる。

他のクラスメイトにアピールするかの様に、さも自分達がクラスの中心に居るんだと言わんばかりに大きい声で喋り出す。
話題は当然、カンナのことだ。

女子達が流行りのゴシップネタを楽しむかの様に、キャーキャーとつばきを質問攻めにする。
つばきは落ち着いた声で「大丈夫だよ。」とか「心配かけてごめんね。」とか、当たり障りの無い答えを返す。

俺の後ろの席の男子が、また俺に「大丈夫か?」と言って、「つばきちゃんだって辛いのにな。」と言った。

女子達を横目で見ながら、俺はポケットからスマホを取り出して、つばきにメッセージを送った。つばきに自分から連絡を入れるのは、どれくらいぶりだろう。

「始業式、体育館に行くふりして屋上に来い。」

その一言を打ち込むだけで、随分と時間がかかった気がする。
手の震えは未だに起こる。冷たい汗が額を流れた。