「ここに、つばきが金魚の墓を作ったんだ。」

「金魚って…。」

「夏祭りの日にオマケで貰った、三匹の金魚。」

「もう…死んじゃったの?」

「次の日に。お墓を作りに行こうって、つばきが俺の家に来たんだ。カンナも誘ったけど家に居なかったって。それで二人で…。」

「私…誘われてない。スマホに連絡も来てないし、夏祭りの次の日は…ずっと家に居たもの。」

戸惑いの表情のまま言うカンナに、俺も動揺した。つばきは嘘をついた。本当は最初からカンナのことは誘っていなかったんだ。何の為に…。
理由があるとすれば…。

「カンナには…、知られたくなかったのかも。」

「え…?」

「つばき、あの三匹の金魚のことはたぶん…本当に喜んでたと思う。金魚が死んでしまったのはつばきだけのせいじゃない。俺と…カンナも…、つばきが金魚を飼育する知識があるかどうかも確かめないでつばきに押し付けた形になってしまった。つばき、元気が無くなっていく金魚を一晩中見てたって言ってたんだ。死んでしまって悲しかったのは本当だと思う。カンナのことも悲しませたくなくて黙ってたんじゃないかな…。」

理由があるとすれば、これが本当だと思う。つばきがずっと、生きていく環境だとか、結局死んでしまうんだとか、くらげのこととか…やけに気にしていたのは、あの三匹の金魚に俺達三人を重ねていたからだ。

夏祭りの夜、三人で一緒に居たいと声を震わせたつばきの願いが、たった一晩で終わってしまったような気がして、怖かったんだと思う。

カンナの球根のことは言わなかった。それは本当に、カンナが知る必要は無いし、知ってはいけない気がした。

「そうだったんだね…。じゃあ私達…つばきに酷いことしちゃったかもしれないね。」

「また来年、一緒に金魚すくいをしよう。今度はちゃんと水槽とか餌とか酸素送るやつとかも揃えてさ。」

「うん。つばき、きっと喜ぶよ。」

カンナは握っていた手を離して、金魚の墓があったであろう場所、跡形も無いけれど、そこで両手を合わせた。俺もカンナの真似をして手を合わせた。

「あ。」

「どうした?」

カンナが持っていたビニールの手提げ袋を顔の高さまで持ち上げた。

「りんご飴、忘れてた。」