バスの一番後ろの席に、三人並んで座った。カンナを真ん中にして、窓際につばき、その反対側に俺。
バスが出発してすぐにつばきは眠ってしまった。学校の最寄りのバス停までは一時間くらいかかる。朝の通勤ラッシュや夕方の帰宅ラッシュには、予定時間よりも大幅に時間がかかることもある。
バスで十分くらいは民家も何も無い、ただの山道が続いて、その山を越えるとようやく住宅地らしい景色が見えてくる。この山を越えたところに俺達三人が通っていた小学校と中学校がある。
バスで十分。歩けば二時間はかかるから、小学校や中学校の遠足は、俺達三人の地元の海が遠足の到着地だった。
登校して、みんなで山を越えて地元に帰ってくる。変な行事だとずっと思っていた。
同級生たちもバスで通学してくる友達は沢山居たけれど、この山を越えた向こうから来る生徒がほとんどだ。俺達三人を含めても、全校生徒の中に同じ町の出身者は少ない。
みんなはこの遠足が好きみたいで、俺はずっと不思議だった。
山を越えると、ガラガラだったバスの車内もだんだんと混みだした。俺の隣にもギリギリまで人が座ってくる。
つばきの方を見ると、カンナにもたれる様にして眠り続けている。黒くて長い髪の毛が顔にかかっていて、表情は分からない。カンナがそっと髪の毛を撫でて、「赤ちゃんみたい。」と笑った。
満員の車内は殺伐としているけれど、この小さい空間だけ、違う空気が流れているみたいだった。
もしかしたら現実になってしまう不安を、終わってしまうかもしれない平穏を、どうか俺の思い過ごしであって欲しいと願わずにはいられなかった。
どうしてずっと、つばきを疑っているんだろう。
つばきがカンナに嫌がらせをする理由なんか無い。俺とカンナに対する当て付けだとしても、ここまで幼稚な人間じゃないはずだ。
変わってしまうかもしれない日常が怖かった。
知らない「人間」が、俺の背後でずっと笑っているみたいで不気味だった。
バスが学校の最寄りに到着して、カンナがつばきを揺すって起こす。気持ちよさそうに腕を伸ばして伸びをしたつばきに、おかしいところなんて見受けられない。
「透華くん?」
カンナに呼ばれて、俺はハッとした。
「ごめん。」
慌てて席を立って、降車口に向かう。
つばきが後ろから「何ボーッとしてんの。」と言った。その声も、どこか遠くに聞こえる。
知りたくない現実の方が、近くに居るような気がして、俺はつばきの方を振り向けなかった。
何でたったこれだけのことで、こんなにもつばきを疑っているのか、自分でも分からない。最低だと思う。大事な幼馴染を一番に疑うなんて。
なのに自分の中に出来てしまったほんの少しだった疑惑のシミがじわじわと成長してしまっている。
つばきのあの目を思い出すたびに。まるで「早く気づけ」と言われている様なあの目に見られるたびに…。
バスが出発してすぐにつばきは眠ってしまった。学校の最寄りのバス停までは一時間くらいかかる。朝の通勤ラッシュや夕方の帰宅ラッシュには、予定時間よりも大幅に時間がかかることもある。
バスで十分くらいは民家も何も無い、ただの山道が続いて、その山を越えるとようやく住宅地らしい景色が見えてくる。この山を越えたところに俺達三人が通っていた小学校と中学校がある。
バスで十分。歩けば二時間はかかるから、小学校や中学校の遠足は、俺達三人の地元の海が遠足の到着地だった。
登校して、みんなで山を越えて地元に帰ってくる。変な行事だとずっと思っていた。
同級生たちもバスで通学してくる友達は沢山居たけれど、この山を越えた向こうから来る生徒がほとんどだ。俺達三人を含めても、全校生徒の中に同じ町の出身者は少ない。
みんなはこの遠足が好きみたいで、俺はずっと不思議だった。
山を越えると、ガラガラだったバスの車内もだんだんと混みだした。俺の隣にもギリギリまで人が座ってくる。
つばきの方を見ると、カンナにもたれる様にして眠り続けている。黒くて長い髪の毛が顔にかかっていて、表情は分からない。カンナがそっと髪の毛を撫でて、「赤ちゃんみたい。」と笑った。
満員の車内は殺伐としているけれど、この小さい空間だけ、違う空気が流れているみたいだった。
もしかしたら現実になってしまう不安を、終わってしまうかもしれない平穏を、どうか俺の思い過ごしであって欲しいと願わずにはいられなかった。
どうしてずっと、つばきを疑っているんだろう。
つばきがカンナに嫌がらせをする理由なんか無い。俺とカンナに対する当て付けだとしても、ここまで幼稚な人間じゃないはずだ。
変わってしまうかもしれない日常が怖かった。
知らない「人間」が、俺の背後でずっと笑っているみたいで不気味だった。
バスが学校の最寄りに到着して、カンナがつばきを揺すって起こす。気持ちよさそうに腕を伸ばして伸びをしたつばきに、おかしいところなんて見受けられない。
「透華くん?」
カンナに呼ばれて、俺はハッとした。
「ごめん。」
慌てて席を立って、降車口に向かう。
つばきが後ろから「何ボーッとしてんの。」と言った。その声も、どこか遠くに聞こえる。
知りたくない現実の方が、近くに居るような気がして、俺はつばきの方を振り向けなかった。
何でたったこれだけのことで、こんなにもつばきを疑っているのか、自分でも分からない。最低だと思う。大事な幼馴染を一番に疑うなんて。
なのに自分の中に出来てしまったほんの少しだった疑惑のシミがじわじわと成長してしまっている。
つばきのあの目を思い出すたびに。まるで「早く気づけ」と言われている様なあの目に見られるたびに…。



