翌日、久しぶりに天気が良くて、気温は高いけれど、雨の日よりも湿気が抑えられている分、少しだけ過ごしやすかった。

今日は三人で登校している。カンナが俺を迎えに来て、つばきを二人で迎えにいく。
二階からバタバタと階段を駆け降りてくる音。
つばきが急いでローファーを履くのを見守りながら、カンナが「もっと余裕持って起きなよ。」と聞き慣れた言葉をかける。
ローファーを履くつばきの手には、制服の赤いリボンが握られている。着替えも終わっていないらしい。いつもの光景だ。

バス停までの道を、三人並んで歩く。田舎だから道はやたらと広いし、反対に人は少ない。歩道も道路も、交通量が多くない限り、あまり役目は果たしていないし、交通量が多いことなんて滅多に無い。
昨日の雨で、畑の野菜の葉っぱが濡れてキラキラと光っている。晴れてみるとやっぱり少し、夏の匂いを感じる。つばきが「晴れたね!」と嬉しそうにくるくる回りながら歩いて、カンナが「危ないよ。」と宥める。まだリボンは結んでいなくて、つばきの手に握られたリボンがひらひらと揺蕩っている。

ふと、昨日の嫌がらせの紙切れの、赤い色を思い出した。
羽、花びら、それからこんな風に風になびくリボン。でもそれだと何の手掛かりにもならない。この赤いリボンなんて、学校の女子全員が持っている。羽…も尚更意味が分からない。

花びらだったらどうだろう。

「カンナ」の花びら。赤や濃いオレンジ。黄色のフチがついているものも想像できる。

「椿」の花びら。赤、ピンク、確か白もあったはずだ。

カンナも椿も「赤」は濃くて深い赤を真っ先にイメージする。あの、血の様な色。


「どうしたの?寝不足?」

パッと顔を上げると、つばきが不思議そうな目で俺を見ていた。

「あー…うん。そうかも。」

わざとらしく返事をする俺につばきは「ゲームばっかりしてちゃ駄目だよ。」なんて言った。
俺は「寝坊するお前よりマシ。」と言って笑った。

この気まずさを、悟られない様に。