見て、と言いながら、紙切れを手のひらに乗せたまま、その手をテーブルの中心に置いた。左利きのつばきは、右の手のひらに紙切れを乗せて、左手の人差し指をトン、と紙切れに乗せた。

その人差し指の先の、赤い、何かの絵。丸が歪んだ様な、何かの羽か花びらみたいな。
その赤は色鉛筆や絵の具では無さそうな色、朱肉に近い。それか…血…。

血、と思っていたら、つばきの右手の小指の絆創膏が目に付いた。カンナの好きなうさぎのキャラクターの絆創膏。
カンナは怪我をしたらよくその絆創膏をくれた。恥ずかしいからいいよと断っても、カンナはこれに関しては頑なだった。

「指、どうしたの。」

カンナも同じことを思っていたのか、つばきに訊いた。

「…ああ、朝花瓶の水替えてる時に割っちゃって。」

そう言えば、教室に置いてある花瓶が、今朝は無くなっていたことを思い出した。つばきが割ってしまっていたことを今知った。

「カンナちゃんが前にくれた絆創膏、余ってたから使っちゃった。」

つばきは怪我をしているのに、嬉しそうに笑った。

俺は紙切れの上の赤に視線を戻して、言った。

「何だろうな、これ。」

「うん。私も気になってて…。」

カンナも薄気味悪そうにその赤を見ている。

「何かのメッセージかもね。ま、何かは分かんないけどー。」

つばきがあっけらかんとした口調で言う。

「とにかく、気持ち悪いし捨てよう。またこんなことがあったらすぐ言えよ。」

俺はつばきの手のひらの上の紙切れをサッと取って、再びクシャクシャに丸めて、生姜焼きが乗っているトレイの上にポイ、と転がした。

なのに、つばきが「もう一度、よく見せて。」と言って再び手に取った。
こんなこと日常ではそうそう起こり得ない。俺達みたいに田舎暮らしの学生は「娯楽」に飢えている。
つばきはオモチャを見つけた子供みたいに目を爛々とさせた。カンナがこんなにも悲しんでいるのに。

つばきが左手の親指と人差し指で、小指の絆創膏をなぞる様な仕草をしながら、その紙をまじまじと見ている。
何を考えているかは分からない。

俺は早く犯人を特定したかった。小さな嫌がらせでも、こういうことが続けばカンナの傷はどんどん大きくなる。カンナが悲しむのは苦しい。
それに、この嫌な胸騒ぎが気持ち悪くて、こんなこと、早く終わりにしたかった。

つばきのこの、得体の知れない瞳のワケも。