少しだけ震えている様に聞こえるカンナの声。
俺は生姜焼きを食べていた箸を置いて、カンナを見た。つばきもテーブルに置いたペットボトルを両手で包んで、カンナを見ている。
カンナは伏目がちにもう一度「あのね…。」と呟いて、深呼吸をした。それから、制服のスカートのポケットから、クシャクシャになった紙切れを取り出して、俺達に見せた。
今朝の、あの紙切れだ。
「それは?」
俺が訊いて、つばきはチラッと俺を見てから、カンナの手のひらの上の、丸められた紙切れに視線を戻した。
カンナはゆっくりとその紙切れを広げて、テーブルの上に置いて、一度ゆっくりとアイロンをかける様に手のひらでスッと伸ばす仕草をした。
クシャクシャの紙切れはクシャクシャのままで、実際の紙よりもやわらかそうに見えた。
「とおかとわかれろ」
その紙切れの上の、書き殴りみたいな文字を、俺はゆっくりと声に出して読んだ。
「とおかと、わかれろ…だって。」
つばきも声に出して読みながら、俺とカンナを交互に見た。
「うん…。」
カンナが細い声で相槌をうつ。
書き殴りの文字は全部平仮名で書かれていて、利き手じゃない方の手か、まるで文字を覚えたての子供が書いたみたいな字だった。身バレしない様に、こういう風に書きましたっていうのが分かる「脅迫状」だ。
「朝、下足箱に入ってたんだろ?」
俺が言って、カンナは俺を見て一瞬沈黙したけれど、「気づいてたんだね…。」と小さく頷いた。
「カンナちゃんのこと好きなのかな。だからとーか君と別れて欲しいのかも。」
「ううん。逆だと思う。透華くんのことを好きで、ヤキモチって言うか…。」
「ヤキモチ、ねぇ…。」
カンナとつばきが言い合うのを聞きながら、理由はどうあれ悪質だと思った。たかが一枚の紙切れかもしれない。「犯人」はたった一枚の、たった一言の嫌がらせだと思っているかもしれない。
でもそうじゃない。そのたった一つ、たった一瞬が人一人をどれだけ不安にさせて、悲しくさせるのか考えていないその行動に無性に腹が立った。想像力が乏しくて、幼稚だと思った。
「カンナ、大丈夫だよ。俺は別れるつもりは無いし、絶対にカンナを守るから。」
「うん…。ありがとう。」
カンナは苦しそうに笑った。つばきが俺を見て、一瞬眉間に皺を寄せた。自分の前で言うなって思っているのかもしれない。
つばきが呆れた様に溜め息をついてから、テーブルの上の紙切れを手に取って、言った。
「ねぇ、見て。」
俺は生姜焼きを食べていた箸を置いて、カンナを見た。つばきもテーブルに置いたペットボトルを両手で包んで、カンナを見ている。
カンナは伏目がちにもう一度「あのね…。」と呟いて、深呼吸をした。それから、制服のスカートのポケットから、クシャクシャになった紙切れを取り出して、俺達に見せた。
今朝の、あの紙切れだ。
「それは?」
俺が訊いて、つばきはチラッと俺を見てから、カンナの手のひらの上の、丸められた紙切れに視線を戻した。
カンナはゆっくりとその紙切れを広げて、テーブルの上に置いて、一度ゆっくりとアイロンをかける様に手のひらでスッと伸ばす仕草をした。
クシャクシャの紙切れはクシャクシャのままで、実際の紙よりもやわらかそうに見えた。
「とおかとわかれろ」
その紙切れの上の、書き殴りみたいな文字を、俺はゆっくりと声に出して読んだ。
「とおかと、わかれろ…だって。」
つばきも声に出して読みながら、俺とカンナを交互に見た。
「うん…。」
カンナが細い声で相槌をうつ。
書き殴りの文字は全部平仮名で書かれていて、利き手じゃない方の手か、まるで文字を覚えたての子供が書いたみたいな字だった。身バレしない様に、こういう風に書きましたっていうのが分かる「脅迫状」だ。
「朝、下足箱に入ってたんだろ?」
俺が言って、カンナは俺を見て一瞬沈黙したけれど、「気づいてたんだね…。」と小さく頷いた。
「カンナちゃんのこと好きなのかな。だからとーか君と別れて欲しいのかも。」
「ううん。逆だと思う。透華くんのことを好きで、ヤキモチって言うか…。」
「ヤキモチ、ねぇ…。」
カンナとつばきが言い合うのを聞きながら、理由はどうあれ悪質だと思った。たかが一枚の紙切れかもしれない。「犯人」はたった一枚の、たった一言の嫌がらせだと思っているかもしれない。
でもそうじゃない。そのたった一つ、たった一瞬が人一人をどれだけ不安にさせて、悲しくさせるのか考えていないその行動に無性に腹が立った。想像力が乏しくて、幼稚だと思った。
「カンナ、大丈夫だよ。俺は別れるつもりは無いし、絶対にカンナを守るから。」
「うん…。ありがとう。」
カンナは苦しそうに笑った。つばきが俺を見て、一瞬眉間に皺を寄せた。自分の前で言うなって思っているのかもしれない。
つばきが呆れた様に溜め息をついてから、テーブルの上の紙切れを手に取って、言った。
「ねぇ、見て。」



