総一郎は今までに感じたことのない、胸を鷲掴みにされるような、とても温かい感情になった。


 あかりはひらひらと総一郎に手を振る。



「それじゃ、またね。そーいちろーくん」
「……また」
「困ったら遠慮せずいつでも来てね」
「うん」




 あかりの家の扉が閉まり、総一郎はとても寂しい気持ちになった。


 登校する前に自宅に寄ろうと、とぼとぼエレベーターに乗り込む。


 母から言い聞かせられていた、他人から与えられる親切は有り難く受け取りなさい、という言葉の通りに無意識に行動していたら、めちゃくちゃ良い人に出会ってしまった。


 また、あの温かい人に会いたい。ご飯を食べたいと自然と思ってしまう。


 そして、総一郎は気付いた。



「やってしまった」



 名前と家以外、ほぼ彼女の情報を知らないことに。