「────あかり、あかり」
「へ、なに?……きゃっ」
「どうしたの? 珍しい」
「うううっ……一生の不覚ぅ」



 じゅうじゅうじゅわじゅわ、あかりは朝からキッチンで弁当に詰める甘い卵焼きを焼いていたが、いつの間にかそれは焦げていた。
 あかりはがっくりと項垂れる。考え事をしていたせいだ。


 横に立つ制服に着替えた総一郎は、無表情の中に心配の色を滲ませる。


 毎朝キッチンに立つあかりに挨拶をしてハグをするまでが一定の流れだが、今日は焦げた匂いとあかりの心ここに在らずな姿を見て純粋に不安になった。


 あかりの額に手を当て、総一郎はオマケとばかりにむぎゅりとあかりを抱き締める。
 あかりはここ最近総一郎からのハグへの抵抗をやめている。相変わらずドキドキムズムズするが、この腕の中をどこか安心する自分の居場所のようにも感じている。