でも、翌日、その彼が制服を着て、
私のクラスに来た。

血の気が引いた。

「なぁな、おはよう」

そう言ってニコニコする彼に
何も言えず黙って、ただ頭を下げた。

佐藤ツバサと自己紹介してから、
またニコニコ笑う。

なんで笑ってるんだろう。

小学生に、間違えるなんて、
この歳の男子にしたら屈辱だよね。

絶対に傷ついたはずなのに。

「あの、ごめんね。私」

それしか出ない。
でもツバサくんはニコニコして

「ううん、逆に嬉しかったよ。
俺のこと正解って言ってくれたじゃん。
いつもウザイウザイ言われるからさ」

ふと思った。

「昨日の男の子の友達だったの?
なら余計にごめん」

またニコニコ笑う。

ちょっといい加減イライラしてきた。

なんなんだろう、この余裕。

私が怒りっぽいのか。

「ううん、たまたま通りかかって、
告白シーン初めて見たからさ、
気になっちゃって」

あ、同じ。
私もつい笑っちゃった。

「あ、なぁな、やっと笑ってくれたね。
俺さ、背も低いし、
まだ声変わりもしてないし、
体も小さいからさ、
制服もぶかぶかなの。
だから小学生に間違えられるの、
しょっちゅうだし、
野球部でも先輩にからかわれてる。
だから慣れてるし気にしてない。」

野球部なのか。

だから坊主か。

坊主が余計にチビに見せてるとは言えないな。

「なぁな、部活は?」

そう聞かれ

「運動苦手だから、茶道部に入った」

ちょっと言い訳風に答えた。

「ふーん。茶道部か。甘いお菓子あるね。」

またニコニコする。

「好きなの、お菓子?」

そう聞くと今度は周囲を気にして小声になる。

「うん、甘いもの大好き」

そこは恥ずかしいのか。

かわいいな。

やっぱり小さい子を相手にしてる気がしちゃう。

「駅前にさ、シュークリームの店、
できたの知ってる?」

目をキラキラさせて言うツバサくん。

「うん、まぁ」

知ってるけど興味はなかった。

私、甘いの得意じゃないし。

「行きたいけど、
男、1人じゃ変に思われるよね」

と上目遣いで私を見る。

ああ、一緒に、って事かな。

「いいよ、一緒に行こうよ」

ガッツポーズして喜ぶ。

本当に子どもだな。

ひとりっ子の私には分からないけど、
弟ってこんな感じなのかなって思った。

それから私達は、色んなスイーツを攻めた。

私の苦手は克服できなかったけど、
ツバサくんがニコニコして、
食べる姿は本当に楽しくて嬉しかった。

小さかったツバサくんは、
あっという間に私の背に並び、
筋肉もついてちょっとたくましくなった。

声変わりした時もからかった。

弟の成長を見てる感じで私も感慨深い。

「大きくなったじゃーん」

と私に背中を叩かれると、

「そうかな」

と私と背くらべをして確認する。
そんな事が続いてて、
私はいつしか、
ツバサくんを目で追っていた。

2年生になり、
野球部でピッチャーを任されるようになった。

ハラハラして心配で目が離せなかった。

友達とふざけてる姿は、
目を細めて見守った。

ツバサくんは高い所も好きで、
海辺の公園にある観覧車に何回か乗った。

私は高い所も苦手で、
これは本当に苦手で、
でも、好きな振りをして乗った。

彼を喜ばせてあげたいから。

ツバサくんとは、
ことごとく趣味が合わず、
ホラー映画も苦手なのに
何回も付き合った。

私、ツバサくんの喜ぶ顔が見たいんだよね。

子どものようで弟のようで。

でもいつからか、違うカタチになった。

急にドキドキして男の子を意識したんだ。

いつだったんだろう。