朝はやっぱり眠い。

長い坂道の途中で、
空を見上げて立ち止まった。

葉桜から日差しがもれる。

キラキラしてキレイだな。

校庭からカキーンと
野球部のバッティング練習の音が聞こえた。

いいな、この音。

ツバサくんの打つ音をよく聞いていた。
勝手に利きバッティングをしてた。

当たるわけないのにね。

その音に惹かれるままに
校庭へ向かう。

石段に座って野球部の練習を見てた。
彼らを見てるようでツバサくんを見てた。

元気かな。
最近、メールもないな。
どうしたんだろう。

私も球技大会や勇磨の事で
いっぱいいっぱいで忘れてた。

こんなに連絡ないの、はじめてかもしれない。

そういえば最後に電話があった時、
ピッチャーになれないかもって落ち込んでた。

「あれ、ナナミ、おはよう」

制服の上からジャージを羽織った
さなちゃんが走ってきた。
さなちゃんは同じクラスで私の前の席。

「さなちゃん、野球部のマネージャーだったの?」

そう聞くとにっこり笑った。

「うん、中学の時から付き合ってる彼氏が野球部だからね。」

へぇー。

「どれどれ?」

さなちゃんが指をさしたのは、
ピッチャー練習をしてる男の子だ。

「かっこいいじゃん。いいな」

さなちゃんがのろける。

「いーだろ!マネージャーっていいよ。
好きな人のお世話できてさ。
しかも側で応援できる。」

そういえばツバサくんも言ってたな。
マネージャーがジャージとか洗ってくれるって。

私が洗ってあげたいな。

「今度ね、試合あるんだよ。1年生試合なんだ。
うちの彼、先発で投げるから気合入ってんの。
ナナミも暇なら応援に来てよ。好きなんでしょ、野球」

え、別に好きではないけど。

「そうなの?好きなのかと思った。
まぁでもうちの学校でやるしね。
通りかかったら見に来て。来週の火曜だよ。
北高のピッチャー結構強敵でさ、危ないんだよね。」

え!

今、さなちゃん、北高って言った?

「うん、北高と試合だよ」

北高の野球部、来るの?ここに。

「そうだけど、なんで?」

来るんだ、ツバサくんが。

「あのさ、ちなみになんだけど、
その北高の強敵なピッチャーって
名前はなんて言うの?」

ドキドキした。

「佐藤くんだよ。佐藤ツバサくん。
イケメンなんだよね。彼には内緒だけど。
あれ、ナナミ、どうした?」

ドキドキが止まらなくなり顔がにやける。

ツバサくん、ピッチャーできたんだね。

しかも相手チームに、
強敵って言わせるほどの実力があるなんて。

やっぱり、ツバサくんだ!

「必ず見に行く。変更とかあったら教えて。
絶対見に行くから」

今夜、ツバサくんに連絡しよう。

やった!

会える。

ツバサくんの投げる姿、また見られる。

あーやばい。
嬉しすぎる。

教室に入ろうとして、
隣のクラスのチカを見つけた。

チカ、チカ!と呼ぶ。

「おはよ、ナナミ。なんか楽しそうじゃん」

チカちゃん鋭い!

「あのね、来週ね、うちの学校で、
北高と野球部の試合あるんだって!」

話の真意はすぐに伝わり、
チカも飛び跳ねて喜ぶ。

「やったね、ナナミ!見に行くんでしょ」

うん、行くに決まってる。

高校野球かぁ。

青春だぁ。

そう言ってはしゃいだ。
そんな私の後ろから声がした。

「バスケも青春だ」

そう言ってバスケットボールを私に手渡す。

勇磨だ。

「重っ」

思わず声をあげる私に

「なんだよ、腕力あるくせにな」

嫌味たっぷり言って
教室に入る勇磨を追いかけた。

「はい、ボール」

勇磨に返す。

ボールを人差し指に乗せて回しながら、
自分のロッカーにしまった。

カッコイイ!と黄色い歓声。
私は目が皿になる。

「なんだよ、朝からブスだな。」

ブスで結構!

「前から思ってたんだけど、
バスケってさ、無駄が多いよね。
今の指でくるくるも、
ドリブルの時のくるくるも、
シュートの時のなんか滞空時間長めなのも。」

話の途中から勇磨の表情は固まり、
あきれ顔になる。

「ナナってやっぱりバカなんだな。
それがバスケなの。フェイント、分かるか?」

フェイントって。

「分かるわけないか。
それなのによく野球に興味持ったな。
あれだってかなり複雑だぞ」

へぇそうなのか。

「別に野球に興味なんてないよ。
ただカキーンって音が好きなんだよ」

話にならないというように首を振って、
教科書を机の上に出す。

ふん、バカ勇磨。

私は不純な動機で野球が好きなんだよ、悪いか!

心がふわふわ落ち着かないまま、
1日を過ごした。

放課後、またバッティングの音がしてハッとする。

そのままグラウンドに体が向く。
青空に映える白いボール。

キレイだな。

ツバサくんも、今頃、練習してるのかな。

頑張ってね、ツバサくん。

来週の試合、絶対に勝ってね。

あ、でも私は北高は応援できないのかな。
いっか、私はツバサくん個人を応援するんだから。

良くないのか?
いーや、いーや、なんでも。

目線を移すとテニスコートでは、
チカが華麗にラケットを振っている。

カッコイイなぁ。

勇磨達、バスケ部も今は体育館が使えないのか、花壇脇で走り込みやストレッチをしてる。

確かに、野球だけじゃなくて
テニスもバスケも青春だな。

いいなぁ、青春。

私も青春したいなぁ。

ちょっと羨ましくて悔しい気持ちとともに帰宅した。