朝、鏡をのぞいて髪にヘアピンを留める。
ピンクの貝殻がキラキラしている。

勇磨が好き。

心が軽い。
ふわふわする。

もう重い気持ちに、
うつむき加減にならなくていいんだ。

私、ずっと朝、気持ちが重かった。

学校で勇磨と顔を合わせるのがツラかった。

1日が始まるのが不安だった。

ダンスは楽しかったし充実してたけど、
心の奥底にいつも不安があった。

でも、今はない。

勇磨が大好き。

今日が始まるのが嬉しい。

早く学校に行きたい!

いつもよりも早く家を出た。

走って行きたい気持ちをぐっと抑え、
耳にイヤホンを入れる。

ラストの曲、ソロパートから始まるジャスを流す。

曲が体に染み渡る。心が震える。

見る景色全てがキラキラと輝いて、
大切なかけがえのないものに見える。

勇磨を想う。
温かい腕の中で満たされた心を想う。

大丈夫。ソロパート、きっと踊れる。

長い坂道で肩を軽く叩かれた。

振り返るとチカだった。

イヤホンを取ってチカに挨拶した。

話したいことがたくさんある。

「ナナミ、なんか今日、明るいね。
さては、いい事があったなー。」

そう言ってニヤニヤする。

「うん、実はね。」

昨日の話をした。
チカは涙を流して喜んでくれた。
その姿に私ももらい泣き。

「ありがとう、チカ、大好きだよー」

チカと別れて教室に向かった。
教室にはまだ勇磨は来てない。
でもカバンだけ置いてあった。

あ、れ、

どこに行ったんだろう。

キョロキョロする私に、
南さんの友達が寄ってきた。

「もしかして工藤くんを探してるの?
だとしたら2人で部室棟に行ったよ。
コソコソ2人であやしいよね。
何してるんだか。うふふ。」

途端に不安が襲ってきた。

2人って、南さんと?

嘘、なんで。

だって、昨日は、
私だけ好きだってそう言ったのに。

やだ!

ダメ!

私もあわてて部室棟に向かった。

やだ、やめて。

嘘だ。

そう願いながら。

角を曲がって、
部室棟の見える階段の下まで行くと、
2人の姿が見えた。

途端に景色が色褪せて見えた。

不安が押し寄せる。

やだ。

南さんが勇磨にしがみついてる。

勇磨の手が優しく、南さんの肩に触れる。

やめて、何してんの!

どうなってるの。

訳が分からなくて頭が混乱した。

やっぱり南さんが良くなった?

どうして。

勇磨の手が南さんの両肩を掴み、
抱きしめているように見える。

突然、南さんは走り出して、
私のすぐ横を通り過ぎた。

私を見た南さんの表情からは、
何も分からない。

走り去る南さんを見送った勇磨は、
その視線の先に私を見つけた。

そのまま走ってこっちに来た。