桜色の歌と君。

早起きをしたおかげで、家を出る予定の時間の20分前には準備が終わってしまった。何もすることがないと緊張に意識が全て持っていかれるようで、そわそわしながら何度も鏡を見て髪を整えた。あまりにも落ち着かないので、ゆっくり歩けばいいやと家を出る。結局渋谷には待ち合わせの30分前には着いてしまっていた。

人の多さに酔いそうだ。都会の雰囲気に圧迫されて、全身にぐっと力が入る。

ハチ公前に着くと、誰かが来るのを待っている人たちがたくさんいた。こんなにたくさんの人がいる中で、私はちゃんと宮野くんと会えるのだろうか。どこで待とうかと、何となく視線を動かした時だった。視界の隅で、栗色の髪が、光に照らされて透けて見えた。

溢れそうなくらい、人がいる中で。流れるように、忙しなく人が移動する中で。
目を閉じて音楽を聴く宮野くんは、まるで時間の流れを知らない場所に存在しているみたいだった。

しばらく、声をかけられずにいた。
宮野くんの目がふいに開く。
目が合うと、照れたように笑った。
大好きな笑顔だった。緊張していた体が、糸を解かれるみたいに緩む。
「おいで。」宮野くんの口が動く。
私は頷いて、彼のもとに駆け寄った。