「今日は少し晴れやかな顔をしているね」


気がつくと顔を覗き込まれていて私は慌てて数歩後ずさりをした。


恥ずかしさで顔にカッと熱がこもる。


「そ、そうですか?」


「うん。なにか良いことでもあった?」


「そこまでじゃないですけど……でも、少しだけ頑張ってみました」


「へぇ?」


「午前中だけ自分の教室で授業を受けたんです。相変わらずクラスには馴染めていないけれど、でも今日は辛いこともなくて、良かったかなって思えています」


今日1日を振り返ってみるとなんだかいいとこ取りをしてしまったような気さえする。


授業は完璧についていけるし、休憩時間は1人で過ごすか彼のことを探していた。


そして昼になると特別学級へ戻って、みんなと過ごすことができたのだ。


逃げているように見られても仕方ないことかもしれないけれど、今の私にとっては最善策だった。


「そっか。よかったね」


彼が微笑んだのがわかった次の瞬間、右手にぬくもりを感じて一瞬頭の中が真っ白になった。


視線を落とすと、彼の手が私の右手を握りしめていることに気がついた。


「え、あっ!」


とっさに手を振り払ってしまった。


父親以外の男性に手を握られるのは初めての経験だ。