彼の顔が見えなくても、この愛は変わらない

佳太くんはこちらへ視線を向けるが、なにも言わない。


ただ、とまどっていることだけは雰囲気で伝わってきた。


「ねぇ、先生ってば!」


他の生徒が佳太くんの腕を掴んで、佳太くんの意識は一瞬にしてそっちへ持っていかれた。


佳太くんは困りながらも楽しそうな声で生徒たちの相手をしている。


坂下さんの言っていたことは本当だったんだ――。


気がついたとき、私は化学の教科書を抱きしめたまま、走り出していたのだった。