ジャンヌが勇敢に戦う中、片割れであるアーサーは裏口から家の外へ飛び出す。空には黒煙が上がり、あちこちから火の粉が飛び散って、アーサーの肌を焦がしてしまうような熱風が吹いていた。

「とりあえず森に……」

アーサーは敵に見つからないように様子を伺いつつ、森へと向かう。森に向かうまでの間、怪我をした家族を支えながら歩く人、兵士に殺された家族の亡骸を抱えて泣き叫ぶ人、どこへ逃げればいいのかわからずフラフラと歩く小さな子どもなど、様々な人を見かけた。そう、アーサーは見かけただけだ。助けに行ったりはしない。

(こういう時は、自分の命が最優先だろ)

そう自分に言い聞かせ、アーサーは森の中へと逃げていく。敵国の兵士がやってくるたびにこうだ。目の前で助けを求められても、自分が死ぬのが怖くて見て見ぬふりをする。困っている人を何も考えずに助けに行けるジャンヌとは正反対だ。

「俺には無理だ、あいつみたいなことはできない……」

ようやくたどり着けたブナの木にもたれかかり、アーサーは呼吸を整える。遠くからは街が燃やされていく音が響いていた。