春菜の勤め先はアパートから電車を2つ乗りついただきにある有名なホテルのフロント係だった。


手が空く時間帯には清掃も行う。


ロッカールームで制服に着替えて首にスカーフを巻くと自然と気持ちが引き締まる。


今日も1日お客様のために頑張ろうという気になれる。


しかし、今日は寝不足と傷心が重なってミスを連発してしまった。


お客様に違う部屋のキーを渡してしまったり、掃除道具を部屋に忘れてきてしまったりと、普段することのないミスばかりだ。


『ちょっと高橋さん、いい加減にしてよね!』


同じフロント業務の先輩、石田さんに呼ばれて行ってみると目を吊り上げて怒られた。


『すみませんでした』


精一杯頭をさげても、石田さんのつり上がった目はなかなか元には戻らない。


自分のミスの尻拭いは石田さんに回ってくるのだから、当然のことだった。


今日はもう何度石田さんに謝罪されてしまったかわからない。


『私生活でなにがあったのか知らないけど、今は仕事中なんだから切り離してよね!』


ごもっともなことを言われてうなだれてしまう。


振られて落ち込んで仕事に支障が出るなんて、社会人として不合格だということも理解できる。


なにしろ春菜の仕事はお客様ありきなのだ。


そのお客様に迷惑をかけていては話にならない。