「不躾な質問ばかりですみません。ですが、これは春菜さんの記憶を取り戻すために必要なことなんです」


「あぁ、そうだな。実は1度その相手とデートしたんだ。だけどその時点でお手上げだよ。1回のデートで10万も使わされたんじゃやってらんないね」


「なるほど。それで春菜さんとヨリを戻せたらと思ったんですね」


黒田の言い分はわかった。


でもそれより、春菜はこのスマホの中を確認したかった。


「あの、私のスマホの暗証番号とかわかりませんか? 友達や家や会社、誰からも連絡が来ないし、ロックも解除できなくて……」


そう言うとすぐに黒田は暗証番号を教えてくれた。


「これ、2人が付き合い出した記念日なんだ」


黒田はそう言って微笑みかけてくる。


春菜はそれをお辞儀で返し、スマホのロックを外した。


最初にアルバムをかくにんしてみると黒田とのツーショットが沢山表示された。


2人で行った動物園や水族館などの写真で溢れている。


その中で、春菜が紺色のスーツを着てホテルの前に立っている写真を見つけた。


そこには数十人のホテル従業員と思われる男女も一緒に写っていて、みんな同じスーツ姿だ。


「これは?」


黒田に差し出して聞いてみると「これは君の職場だよ」


「私、ホテルに勤めてたんだ……」


それなら清掃やフロント業務がスムーズに行えたことも納得できる。