京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

☆☆☆

そのカフェは白を貴重としている店内で、清潔感があった。


この前皐月に連れられて言った茅葺屋根のカフェとはまた違った明るい雰囲気だ。


店内に流れている曲も聞き覚えのあるポップなもので、これから深刻な話しをする春菜の心をほぐしてくれた。


「さっそくですが、黒田さんと春菜さんはお付き合いをされていたんですね?」


コーヒーが運ばれてきてから純一が口火を切った。


「そうです。1年くらい付き合ったかな」


黒田は熱いコーヒーをふーふーと冷ましてから口をつけた。


猫舌のようだ。


その様子に記憶をくすぐられるような感覚があって、春菜は身じろぎをした。


自分はこの人のこの姿を何度も間近で見たことがあると、確信を持った。


「どうして別れたんですか?」


その質問に黒田は一瞬眉を寄せて、そして「俺に好きな子ができたんです」と、ため息まじりに答えた。


「なるほど。それでもあなたはヨリを戻したいと言っていたみたいですが?」


「あんた、質問に容赦ないな」


黒田は苦笑いを浮かべて頭をかく。